いろいろいきさつありまして京セラの稲盛氏の『稲盛和夫の実学』を読みました。

稲盛和夫の実学―経営と会計
稲盛 和夫
日本経済新聞社
2000-11-07



本書を読み最も強く記憶に残った箇所は、京セラの「時間当たり採算制度」の以下記述についてです。    

社内における各アメーバ間でのモノやサービスの取引はあくまで、社外に対するものと同等の取引として扱われ、その取引価格は双方が交渉のうえで納得した「マーケットプライス」でなければならないことになっている。すなわち売る側と買う側のアメーバの間で市場取引と同様の価格交渉が行われ、購入先についても原則として選択の自由を持っているのである。

更に、アメーバ経営を行う際も決してアメーバ同士をはげしく競争させ合うことではなく、アメーバ同士がともに助け合い、またアメーバ間の取引が市場ルールでなされることにより、社内の取引に対しても「生きた市場」の緊張感やダイナミズムを持ち込むことが目的であるとの記述もあります。

上記を読んで、日本の多くの大企業で行われている儲かっていないセクションが存在する際に発生する“社内的な力学”が想像されますよね。例えば、ある製品を作る際に様々な技術を寄せ集める必要があって、その際に、社外の最先端の技術を取り入れるのではなく、「社内調達のお達し」により社内の資源を活用することが求められ、不採算事業から社内調達を行うとかそういうのです。

その為に儲かっているコア事業までも弱めてしまうという事態ですね。京セラのように社内取引においても市場ルールの緊張感を持ち込まなかったことで、日本企業の弱体化の一旦が見えてきます。

 

また、社内に「時間当たり採算制度」とそれに伴う市場ルールを持ち込むことで採算事業、不採算事業を顕在化させることが容易になるようです。2010年から取り組まれているJALの再建においてもコストを可視化するために社内取引単価を決めている。「パイロット費用」「キャビンアテンダント費用」「空港費用」などの単価を細かく決め、これを基に1便ごとに収支をはじき出せるようにした上で、1便単位で翌日には収支がわかるようにしています。

ということは、JALにおいても稲盛氏が会長職に就任する前は、社内取引単価は定めておらず、その為コストの可視化が行われていなかったことが、取り組まれた内容からわかります。JALはこの様にアメーバ経営とそれに伴う「時間当たり採算制度」を導入したことで、臨時便の運航や減航、機材の小型化や要因配置の変更、また不採算路線からの撤退を行ったことにより再建を果たすことができたと言えます。

 

ちなみに2010年京セラが東芝より買収した東芝ケミカル(その後、京セラケミカル。現在は、本社に吸収)は、営業品目や設備、従業員を大幅に変更することもなく、黒字転換しています。京セラのグループ会社ですので、もちろん本社やその他グループ会社と同様にアメーバ経営と「時間当たり採算制度」を導入することで、得た結果の様です。

この様に述べると、アメーバ経営がまるで不採算事業や企業を立ち直らせる魔法の薬かの様に感じてしまいますが、もちろんその様なことはなく、本質を掴まなければ失敗してしまいます。アメーバ経営の根底にあるのは、経営のマニュアルではなく、精神性ではないでしょうか。本書においても「人の心をベースとして経営する」と述べられています。ダブルチェックシステムを始めた動機についても以下の記述があります。


間違いを犯したり、失敗した人を顕在化する為ではなく、人に間違いを起こさせてはならないという信念から生み出された仕組みであることが理解できます。これまで不祥事により大きなニュースになったエンロンやオリンパスといった会社の事例では、その後の調査や内部告発を読むと不正発生の余地が多くあったことが窺えます。どちらの事件でも経営者が容易に数字を操作できる会計制度にも問題はあるのでしょうが、一番の要因は経営者自身が倫理や哲学を忘れたことにあるのではないでしょうか。

 

「時間当たり採算制度」を導入し、本書に書かれている「一対一の対応」、「ガラス張りの経営」、「ダブルチェック」といった自身を律するためのシンプルな原則により、優れた技術を持つ多くの会社が永く存続することを願いますねー。


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